【第終章】
喪が明けた昭和53年8月下旬。智之が夏休みを早めに切り上げ、戻ってくると、「こっちよ」と慶子は彼を初めて母屋に泊めた。
「だけど」
「気にしないの。どうせ邪魔だったんだから」
「でも、由紀子ちゃんが」
「あの子なら、東京の親戚のところに遊びに行かせたから」とブラウスのボタンを外す慶子にとって、大切なのは智之だけ。
隣りの仏間には夫の遺影が飾ってあるが、それは親戚や近所の人の目をごまかす形に過ぎず、これからは気兼ねなく抱き合え。
二人は、「気持ちいいわね」、「うん」と服を脱いで裸になると、浴室でシャワーを浴びたが、智之のペニスはずっと天井を向いたままだった。
客間の敷かれた布団には真新しいシーツが掛けられ、横たわると、湯上がりの肌にとても心地良かった。
「智之」
「慶子さん」
と二人は唇を合せたが、逸る智之は直ぐに慶子の下腹部に顔を埋め、その性器に舌を這わせ、濡れてきたところで、「入れるよ」と迷わずペニスを挿入した。
「あん……」
「うっ……」
二人は溜まりに溜まっていた性欲が尽き果てるまで、夜が明けても体を求め合った。
そして、昭和55年3月、智之が東京の大学に合格すると、追いかけるように、慶子は娘の由紀子を連れて、東京に移り住んだ。
だが、その引っ越しの最中、由紀子は母親のスクラップブックを見つけてしまった。
「毒キノコを食べ、死亡」
「生卵が原因か?サルモネラ菌による食中毒」
等々、ページを捲る由紀子の指先が震え、顔色は青ざめていった。
ママ、パパに何をしたの?
あれは本当に事故だったの?
由紀子の疑念は慶子が亡くなるまで消えることはなかった。
完