毎週木曜日になると、二人は監督会議だと言って出掛け、横田は襟足が乾かぬうちに帰ることもあった。
そんな横田を、不信に思った妻、和美(かずみ)は「あなた、お風呂に入って来たの?」と問い詰めた。
横田は「風呂なんか入る訳ないだろう。か、監督会議なんだから」と即座に否定したが、声が上ずっている。それを妻が見逃す、いや聞き逃す筈がない。
「そうかしら。すっきりした顔をしているのに」と皮肉を込めて返すと、「ははは、そうかな」と惚ければいいものを、「なんだよ、引っ掛かるような言い方して」と横田はムキになる。
浮気がばれかけた男の悲しい習性だ。こうなると、女の勘がそのままにはしておかない。
「監督会議って、月一回じゃなかったの?いつから毎週になったの?」
「いや、月一回って決まっている訳じゃない……最近は相談することが多くて、それで毎週になった」
「へえ、藤本さんと相談することがそんなにあるの? いったい、どんな相談なの?」
「バ、バカなことを言うな!彼女は会計幹事だから来てもらっているだけだ!」
痛いところを突かれ横田は思わず声が荒げてしまったが、和美は「会計幹事、そうか、会計幹事ね……」と冷やかだ。しかし、顔を見ると、いつ爆発してもおかしくない。
やばい、非常にやばい。
ペットボトルのお茶を一口、口に含んだ横田は「そ、そうだよ、会計幹事だよ」と言い逃れようとしたが、みるみる顔色が変わった和美は「でも、監督会議って文化会館よね。あそこは午後9時には閉館するのに、先週も今日も、あなたが帰って来たのは午後10時過ぎ。どういうこと?」と声を震わせていた。
絶体絶命。
「それは……」と口ごもる横田に、「いくらでも惚けなさい! 何れ分ることよ!」と和美はコーヒーカップを投げつけ、寝室に駆け込んでいった。
を押すまで、何度交わったか、二人とも覚えていなかった。